英語で感情を表す
英語にも感情を表す単語があります。
「笑う」はlaughという動詞があり、何かについて笑うという英語は、laugh at ~やlaugh about ~となります。
同じように「泣く」はcryですが、実は感情を表すこのような自動詞は英語では少ないのです。
英語では「笑う」という動詞があるのに、第67話でもお話ししましたが、「怒る」という動詞は一般的には知られていません。
「動詞」は、人間の動作や行動、ものごとの変化などを表現し、自動詞と他動詞があり、自動詞とは、「〇〇を」という目的語がなくても「自分だけで動詞として成り立つ」ことができるので、laughやcryはwalk(歩く)などと同じですね。
他動詞は、文章として機能する上で「〇〇を」という目的語の存在が欠かせない動詞です。
形容詞で表す感情の表現
「怒る」で思い浮かべる英語はangryですが、angryは動詞ではなくて形容詞で、形容詞というと名詞の前に付いて、「赤いりんご」のように「赤い」という形容詞はそのあとに続く「りんご」という名詞を修飾することが一般的な役割ですが、英語ではbe動詞やgetなどの動詞のあとに付いて状態を表す、補語の役割をすることもあるのです。
「怒っている」は英語で、I’m angry として、Be動詞+angryで「怒っている状態」を表し、「怒る」は英語でget angryとして同じように「怒っている状態になった=怒っている」という表現になるのです。
ここで分かるように、angryは補語の役割の形容詞で状態を表し、何かが原因で「悲しむ」と同じように「怒る」状態になるという表現をします。
何かに対してという場合にはその何かの前にaboutなどの前置詞をつけて明らかにし、何かに対して怒っている状態である、という表現になって、日本語で「何かを怒る」というように「怒る」を「動詞」のようには使わないのです。
動詞で表す感情の表現
英語にも感情を表す動詞はあるのですが、例えば「喜ぶ」という自動詞は英語にはなく、pleaseは「喜ばせる」として、「〇〇を」という名詞を伴う他動詞です
そして、この他動詞は、語尾にedを付けて過去形のようにして、受け身を表す使われ方があり、英語では感情を表す「感情動詞」のほとんどがこの他動詞で、しかもedをつけて受け身として、「~される」のような形で感情を表現するのです。
つまり、日本語では、「感情は自分の中から湧き出てきて、それが自発的な行為」として表現されますが、英語では、「なにかの原因あり、その結果起こった感情として湧いてくる」とされているのでしょうか、「感情は受け取るもの」としてとらえています。
そのため、感情を表現する多くの場合「be動詞+過去分詞」の受動態の型が用いられます。
このように、日本語で表現する感情は、自発的なものと考えるので「~する」のように能動態で表わしますが、英語で表現する感情は、自分の意志とは関係なく外部からの働きかけでそうなったと考えるので、「~される」と受動態で表わすのでしょう。
これらのことから、感情を表わす受動構文は、受動態のカタチをとっていますが、日本語の意識に合わせると、日本語訳では「~する」となります。
感情動詞が受け身の形で表現される主なものは次のとおりです。
be pleased(喜ぶ)、be satisfied(満足する)、be excited(わくわくする)、be disappointed(がっかりする)、be shocked(ショックを受ける)、be tired(疲れる)、be surprised(驚く)、be worried (心配する)などです。
名詞で表す感情の表現
さらに、「楽しい」というのを英語でなんというかと考えるとfunという単語が思い浮かびますが、funは名詞なので、「私は楽しい」を英語で表現すると、It’s fun to ~というように「何かをしていて楽しい」という言い方になってしまいます。
つまり、英語では「楽しい」という形容詞もないのです。「楽しいこと」という名詞か、enjoyという「楽しむ」という他動詞で「楽しい」という心の状態を表現することになります。
日本語で「なんとなく楽しい」という心の状態の表現は英語では見当たらず、Let’s have funとかenjoyという「楽しむ」という肉体的な動作によって「楽しい」という心の状態を作り出す感覚なのでしょう。
joyfulという「楽しい」という形容詞がありますが、これは名詞の前につけてその名詞の内容を表現するもので、例えばjoyful newsとして「うれしい知らせ」のように使い、I’m joyfulというように心の状態を表す形容詞としてはあまり使いません。
「楽しい」という心の状態でよく使われる英語はhappyで、比較的happyは万能的な使われ方をします。
感情の沸き起こり方
「怒る」という自動詞がないことから、欧米人にとって「怒る」というのは肉体的な行為や動作ではなく、「うれしい」や「悲しい」というような心の状態であると考えているということになりますね。
これは日本人と欧米人の感情の表現の違いという単純な比較ではなく、感情のコントロールや感情を向ける相手に対する意識などの違いからくるものなのではないでしょうか。
相手に何かの感情を起こさせる動詞は他動詞としてあるのに、自らはその感情を起こさないということですね。
欧米人は、ふだんは沈着冷静であるものの、何かが起きて、そのせいで感情が動かされるということなのでしょう。
それでは、「笑う」と「泣く」は自動詞であることから、感情が動いて、ではなく「思わず」ということなのでしょうか。
英語が話せる日本人なら、このレベルであれば比較的容易に表現でき、知識として知ってはいても、感情の創出、原因、相手に対する意識という感覚的なものまで理解できている人は少ないかも知れませんね。
心の状態を表す喜怒哀楽の表現が、日本と欧米ではこのように違っていることがおもしろいですね。
この「おもしろい」という感情も、日本語では比較的なんでも「おもしろい」で済ましますが、英語ではたくさんの種類の表現があって、おもしろい原因や内容によって使い分けられています。
なぜこんなに日本語と英語では喜怒哀楽の表現の仕方が違うのかinteresting(おもしろい、興味深い)ですね。
「コラッ」と「怒る」
欧米人でさえ、「コラッ」と「怒る」ことがないわけではないと思うのですが、心の状態の表現として、「そのものに直接起こる」のではなく、「そのことによって怒っている状態である」ということでしょうか。
この、人が怒るときに口にしている「コラッ」という言葉は、諸説あるものの有力なのが、もともと九州の鹿児島県、特に薩摩半島あたりで、江戸時代から使われていた方言で、使い方は現代と異なり、「ねえ」や「ちょっと」など、 呼びかけるときに使われる言葉だった、というものです。
この「コラッ」は英語でなんと言うのでしょうか。
「コラッ」は、もともとは呼びかけの言葉なので、同じ呼びかけの「Hey」を怒りの程度によって語調を強めたりするのでしょうけれど、「怒る」というより、「気をつけろ」という感じなのかも知れませんね。
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